高知新聞社会福祉事業団 軽費老人ホームA型 軽費老人ホームA型 あかねの里

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掲載日:2017年12月11日

弔辞

 先だって親しくしてもらっている方のお父さんが、闘病にも関わらず亡くなりました。特農家でこつこつと6、70年も園芸作物の栽培に励まれていました。人柄は朴訥で、家族とも生前、必要なこと以外はほとんど話されなかったとのことでした。家族の一人は「会葬のお礼の挨拶に生前の生活ぶり、エピソードを含めようとしたけれども、思い浮かべることが葬儀までの短い時間にほとんど出来なかった」と後日、話していました。私たちの施設でも数年に1人か、2人が亡くなります。ご家族の要望に応じて葬儀・告別氏に飾る写真は誕生会や野外行事、クラブ活動など諸催しの折に撮影した楽しい場面、愉快な表情のものをご家族に提供します。しかし、「弔辞を読んでほしい」「思い出を伝えてほしい」などとの要望には、知人同様、職員はエピソードをなかなか思い出せず苦慮します。

 10年以上も在籍された方であっても職員は同じような思いをすることがあります。「10年も在籍されたのだから、逸話の何か一つや二つあるはずだ」と職員に短絡的に詰問するのですが、職員は首をひねり思案気です。そして「年齢に伴って幼稚園、小学校、中学校と大きく成長する子どもならたくさん見つかるでしょうが、施設に入られてからは静かに穏やかに暮らしている利用者さんです。特別なものを求めることは無理ではないでしょうか」と反論します。

 言われてみればその通りの感じがします。結婚式と葬式ではごく平凡な庶民も大統領、首相、社長、博士くらいに人柄や業績が称賛されます。そして誇張であっても、美辞麗句であっても、式辞を述べる人をだれもが許してくれます。私たちの施設に入所される方は壮年期を無事勤め上げて、その後の人生を静かに暮らしたいと言う方ばかりです。新たに業績を重ねるということもありません。退所されるまで平穏無事、可もなく不可もなく、これとて目立つことがまったくないことが職員にとっても利用者にとっても最大の幸福、最大の出来事かもしれません。弔辞では人柄をしのぶことはあっても、「Aさん、Aさんの施設での20年間の暮らしで思い浮かぶことが何一つありません」と述べることが最大の賛辞なのかもしれません。

 でも施設長として、何か新たな生活のあかしはなかったのだろうか、と少しばかり引っかかります。新聞やテレビなどは脳卒中での不自由な体を克服して詩吟に取り組んでいる、70歳からパソコンを始めソフトを開発した、定年後に英会話を始めボランティアの観光通訳に励んでいるなどとわくわくしたニュースを届けます。珍しいことだからニュースになることは分かりますが、小さなことでも生きがい活動などを含め関係者にも「施設で生きたあかし」をお伝えできることはないのだろうかと思います。

 利用者の退所の多くは、心身ともにかなり弱ったことによります。弱ったとなれば次の医療・福祉機関に行くことも多いのですが、生きがい活動などさほどいそしむことはできないでしょう。そうすると、私たちの施設から離れたとしても、やはり私たちの施設での生活を故人と語り合い、遺族を慰めるのが最善と思います。「身辺自立の方の施設」との枠も越えて最期まで係り合うことができるのも高齢者施設で働く者の生きがいの一つかもしれません。利用者の施設での「業績」を語る、少し業務を拡大していきたいものです。

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