高知新聞社会福祉事業団 軽費老人ホームA型 軽費老人ホームA型 あかねの里

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掲載日:2017年6月29日

「九十歳。何がめでたい」

 「九十歳。何がめでたい」という、ややショッキングな表題の随筆が今年上半期のベストセラー1位になったそうです。直木賞作家の佐藤愛子さんが2015年4月から2016年6月まで女性週刊誌に連載した29本の随筆をまとめ昨年夏に単行本として出版したもので、B6版223ページで大きな活字で行間もゆったりし、気軽に楽しめるものです。梅雨の休みのひと時、つれづれなるままに手にしました。

 最初の随筆のタイトルからしてセンセーショナルな「こみ上げる憤怒の孤独」といったもので、「長生きするって、たいへんなのねえ…」と書き出されています。90歳を過ぎるとやはり心身とも衰えるようですが、90歳を超えたというだけで原稿とか、講演、インタビューなどの仕事が舞い込んでくると言います。言い募ってなかなか引き下がらない依頼人もいて、「九十といえば卒寿というんですか。まあ! おめでとうございます。白寿を目ざして頑張って下さいませ」との誘いには、「卒寿? ナニがめでてえ」と結んでいます。大阪のおばちゃんの凄味をユーモアで包み込み、納得させる迫力を感じます。

 佐藤さんは、作家人生最後の作品と位置付けた長編小説「晩鐘」を書き上げたのが88歳の春で、その後はのんびりと老後を過ごしていました。ところがのんびりとした生活は気が抜けてまったく楽しくなかった、と言います。90歳を過ぎてからは1年前、いや半年前、3カ月前と比べてめっきり弱くなってきていて、朝起きても別にすることがなく、いつまでもベッドの中でモソモソしていたようです。そのうちだんだんご飯を食べるのも面倒くさくなり、娘さんやお孫さんが会いに来てもおしゃべりをする気持ちがなくなるといった「老人性ウツ病」の症状が出てきました。

 そんな折に女性週刊誌からエッセイの連載依頼が舞い込んだのでした。そして、書き始めて何週間か過ぎたころ、脳細胞のサビが削れて老人性ウツ病から抜け出すことができたのでした。連載を終えたあいさつでは、「ここで休ませていただくのは、戦うべき矢玉が尽きたからです。決してのんびりしたいからではありません」と結んでいます。佐藤さんの文章は、あるときは糾弾し、またあるときは風刺し、文体、内容ともものすごく若々しいものがあります。シトシトと降る雨にじめじめとなった心をからっと晴ればれさせるようなすがすがしさ、力強さもあります。一線の現場で働き、利用者にも接していながらも、このコラムのネタに事欠き、不定期掲載もその間隔が空くことが多い自分からすれば、週刊誌連載のネタを探し、さらに面白く書き続ける佐藤さんの脳細胞はどうなっているのかと驚くばかりです。血管年齢、素肌年齢 骨年齢などいろいろありますが、文章年齢というものがあれば佐藤さんは書き盛りの40歳くらいでしょうか。

 「九十歳。何がめでたい」。いやいや、佐藤さんの場合はやはりめでたい、めでたくなったのです。そして、初老の私どもを含め全高齢者に勇気とともに老人性ウツ病にならないヒントを与えてくれました。連載、また単行本化が成功した訳ですから、柳の下の二匹目のドジョウを狙って、言い募ってなかなか引き下がらない依頼人が相次ぐでしょう。佐藤さんにのんびりとした老後はなさそうですね。

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